ベランダで始める「幼虫歓迎」ガーデン 生物多様性アップの具体的なステップ
なぜ都市で「幼虫歓迎」が必要なのでしょうか
都市の限られた空間では、多様な生き物が暮らすための場所が少なくなっています。特に、チョウやガ、テントウムシなどの多くの昆虫は、特定の植物の葉などを「幼虫」の時期に食べて育ちます。しかし、開発によってこうした植物が減少し、また農薬の使用などもあいまって、幼虫が育つ環境が失われつつあります。
幼虫は、成長して成虫になると、花粉を運んだり、他の小さな虫を食べてくれたり(益虫の場合)と、都市の生態系の中で大切な役割を果たします。また、幼虫そのものが鳥などの餌にもなります。幼虫が育つ場所を作ることは、都市の生物多様性の基盤を支えることにつながるのです。
ベランダや小さな庭でも、少しの工夫でこうした幼虫たちを迎え入れ、育むことができます。これが「幼虫歓迎」ガーデンの考え方です。
自宅で始める「幼虫歓迎」ガーデンとは
「幼虫歓迎」ガーデンは、特定の植物を植えることで、チョウや益虫などの幼虫が訪れ、そこで安全に成長できるような環境を自宅に作る試みです。難しい技術は必要ありません。大切なのは、彼らにとって必要な「食料」と「安全な場所」を提供することです。
ガーデニング初心者の方や、ベランダなどの狭いスペースしかない方でも、手軽に始めることができます。
具体的な実践ステップ:幼虫が喜ぶ植物を選びましょう
幼虫を歓迎するために最も効果的なのは、彼らが食べる植物(食草や食樹)を植えることです。種類によって食べる植物は異なります。
1. チョウの幼虫を招く植物
- アゲハチョウ: ミカン科の植物(キンカン、レモン、サンショウなど)。鉢植えでも育てやすい種類があります。ハーブのディルやフェンネルなども食草となります。
- モンシロチョウ: アブラナ科の植物(キャベツ、ブロッコリー、コマツナなど)。これらは野菜としても育てられますが、アブラナ科には様々なチョウの幼虫がつく可能性があります。ナスタチウムなども好まれます。
- ツマグロヒョウモン: スミレ科の植物(パンジー、ビオラ、ニオイスミレなど)。一般的な園芸品種のパンジーやビオラでも幼虫が見られることがあります。
- ヤマトシジミ: カタバミ。道端などでもよく見られる植物で、鉢植えの隅に生えているカタバミをそのままにしておくと訪れることがあります。
これらの植物の中から、育てやすさや好みに合わせて選んでみましょう。例えば、サンショウやキンカンはベランダで鉢植えで育てやすく、アゲハの幼虫がよく訪れます。パンジーやビオラは秋から春にかけて長く花を楽しめます。
2. 益虫を呼ぶ植物
テントウムシやクサカゲロウなどの益虫は、アブラムシなどを捕食してくれます。これらの益虫を呼び寄せるには、彼らが集まりやすい植物を植えるか、彼らの幼虫が餌を見つけやすい環境を作ることが有効です。
- アブラムシなどがつきやすい植物: ナスタチウムやアブラナ科の植物などは、アブラムシがつきやすい性質があります。これをあえて植えることで、アブラムシを狙ってテントウムシなどが集まってくることがあります。アブラムシは完全に駆除するのではなく、ある程度存在させることで益虫の餌となり、生態系のバランスが生まれます。
- 隠れ家や足場になる植物: セリ科の植物(フェンネル、コリアンダーなど)やキク科の植物(カモミールなど)は、細かい葉や茎が多く、様々な小さな生き物の隠れ家や活動場所になります。花には成虫が集まることもあります。
具体的な実践ステップ:安全な場所を提供しましょう
植物を植えるだけでなく、幼虫が安心して過ごせる環境を作ることも重要です。
1. 殺虫剤の使用を控えましょう
幼虫歓迎ガーデンにおいて最も大切なことの一つは、殺虫剤や強力な薬剤の使用をやめることです。これらの薬剤は、ターゲットとしている害虫だけでなく、幼虫や益虫など様々な昆虫にも影響を与えてしまいます。多少虫に食べられても気にしない、という心の準備があると取り組みやすいです。
2. 落ち葉や枯れた茎を残す工夫
冬越しをする幼虫や卵、サナギなども多くいます。枯れた植物の茎の中や、鉢の隅に積もった落ち葉の下などは、彼らの大切な越冬場所になります。全てをきれいに片付けてしまわず、目立たない場所や鉢の隅に少し残しておくことも、生物多様性への貢献になります。
3. ミニビオトープの設置(任意)
水辺は様々な生き物を呼び寄せます。小さめの睡蓮鉢などに水を入れてメダカなどを飼育しない場合でも、水生植物を少し入れるだけで、トンボやヤゴ、水生昆虫などが訪れる可能性があります。蚊の発生が気になる場合は、ボウフラを食べてくれるメダカを入れるか、定期的に水を入れ替えるなどの対策を講じます。
「虫が増えるのでは?」という懸念について
「幼虫歓迎」と聞くと、「虫が増えて困るのではないか」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。しかし、生物多様性が豊かな環境では、特定の生き物だけが異常に増えすぎることは少なく、様々な生き物のバランスによって数が調整される傾向があります。
例えば、植物を食べる幼虫が増えれば、それを餌とするテントウムシの幼虫やカマキリ、鳥などが集まってくる可能性があります。これにより、特定の虫だけが爆発的に増えるのではなく、多様な生き物が共存するバランスが生まれます。
もちろん、ある程度の数の虫は発生しますが、それは「生き物が暮らしている証拠」と捉え、自然なこととして受け入れる視点も大切です。被害が気になる場合は、植物の数を増やす、特定の種類の植物に集中させないなどの工夫をします。
必要なものと費用目安
ベランダで手軽に始める場合、基本的な道具は以下の通りです。
- 鉢やプランター: 100円ショップなどでも手に入ります。植物の大きさに合ったものを選びます。
- 植物: 種まきから始めると安価です。苗を購入する場合は、1つ数百円程度からあります。ホームセンターや園芸店、オンラインストアなどで購入できます。
- 土: 園芸用の培養土。数リットルであれば数百円程度で購入できます。
- ジョウロ: 水やり用。
- その他(任意): 鉢底石、肥料など。必須ではありませんが、植物の成長を助けます。
全体として、数千円程度の比較的低コストから始めることが可能です。使わなくなったバケツや発泡スチロールの箱などを再利用してプランターとして活用すれば、さらに費用を抑えられます(その際は、底に水抜き用の穴を開けることを忘れないでください)。
失敗を恐れずに楽しむ
自然相手のため、必ずしも全ての植物にすぐに幼虫が来るわけではありませんし、時には植物が食べ尽くされてしまうこともあるかもしれません。また、育てている植物が枯れてしまうこともあるかもしれません。
完璧を目指す必要はありません。大切なのは、自宅の限られたスペースでも、小さな生き物たちのために何かできることがある、という視点を持つことです。うまくいかなくても、原因を考えて次に活かしたり、他の植物を試したりと、気楽な気持ちで楽しみながら取り組んでみてください。
まとめ
都市のベランダで「幼虫歓迎」ガーデンを始めることは、手軽にできる生物多様性への貢献です。チョウや益虫の幼虫が食べる植物を植え、安全な環境を提供することで、小さな生命の営みを身近に感じることができます。
この取り組みを通じて、都市の生態系が様々な生き物によって支えられていることを実感し、私たち自身の暮らしと自然とのつながりについて考えるきっかけになるでしょう。ぜひ、あなたのベランダや庭で、小さな生き物たちを迎え入れてみてください。